- 技術士はわかるけど、技術士補ってなに?
- 技術士や修習技術者との違いはなに?
- 技術士補に登録するメリットってあるの?
- 技術士補がなくなるって本当?
技術士制度では「技術士」のほかに「技術士補」というものが規定されています。
技術士補は技術士と違ってあまり活用されていないこともあり、どのようなものかいまいちピンとこないのではないでしょうか?
更には「技術士補」以外にも「修習技術者」や「JABEE認定課程修了者」なんていう言葉もあったりして、それぞれについていまいちわかりにくいと思います。
日本技術士会の公式ホームページをよく読めば分からなくもないとは思いますが、パッと理解出来るような形にはまとめられていません。
そこで、本記事ではそんな「技術士補」やその他技術士に関する名称について解説していきます。
また、巷では「技術士補制度が廃止されるのではないか?」という噂もあります。
実際には技術士補制度が廃止される可能性は極めて低いのですが、それについて根拠も解説していきます。
技術士、技術士補、修習技術者、JABEE認定課程修了者の違い
技術士法では、技術士、技術士補、修習技術者、JABEE認定課程修了者について以下のように規定されています。
名称 | どの試験まで合格したか | 技術士会で登録したか | 備考 |
---|---|---|---|
技術士 | 二次試験 | 登録した | |
(名称なし) (二次試験合格者) | 二次試験 | 登録していない | 技術士と名乗ってはいけない |
技術士補 | 一次試験 | 登録した | |
修習技術者 | 一次試験 | 登録していない | 技術士補と名乗ってはいけない |
JABEE認定課程修了者 | 受験していない | 登録していない | =修習技術者 認定された大学を卒業した者 |
技術士
「技術士」は二次試験に合格し、技術士として登録した者を指します。
技術士として登録した者のみが「技術士」と名乗ることができます。
注意点として、二次試験に合格しただけでは技術士として名乗れないことが挙げられます。
技術士の名称を使うためには必ず技術士として登録する必要がありますので注意してください。
登録していないのに技術士と名乗ってしまうと罰則もあるので、本当に気をつけてください!
技術士についてはこちらの記事で詳しくまとめています。
⇒技術士とはどんな資格?現役技術士がわかりやすく解説!【技術系最難関の国家資格】
技術士補
「技術士補」は一次試験に合格し、技術士補として登録した者を指します。
メリットがあるかはともかく、技術士会に技術士補として登録を行えば「技術士補」と名乗ることができます。
逆に言えば、登録していなければ「技術士補」と名乗ることはできません。
なお、技術士二次試験を受験する際必ずしも技術士補として登録している必要はありません。
技術士補として登録せず、修習技術者として二次試験を受験することも可能です。
ちなみに、後述の「JABEE認定課程修了者」は一次試験合格に相当する力があるとされ、一次試験に合格しなくても登録さえすれば技術士補と名乗ることができます。
修習技術者
「修習技術者」は一次試験に合格したが、「技術士補」として登録していない者を指します。
修習技術者は技術士補として登録していませんので技術士補を名乗ることは出来ません。
ただし、修習技術者でも実務経験を積めば二次試験を受験することが可能です。
二次試験を受験する際にも技術士補として登録する必要はありません
ちなみに、後述の「JABEE認定課程修了者」は一次試験合格に相当する力があるとされ、一次試験に合格しなくても修習技術者として扱われます。
JABEE認定課程修了者
「JABEE認定課程修了者」はJABEE(日本技術者教育認定機構)が認定した課程を修了した者のことをいいます。この方は技術士試験一次合格者と同等の学力があるものと判断され、「修習技術者」と同じように扱われます。
一般的に該当するのは、JABEEに認定された大学(と指定の学部・学科)の卒業生ですね。
自分の大学がJABEEに認定されているかは文部科学省のホームページで公開していますので、これから技術士を受験しようという方は自分が該当しているか一度確認してみると良いかと思います。
⇒「JABEE認定プログラム 教育機関名別一覧」一般社団法人 日本技術者教育認定機構
技術士捕として登録するメリット
基本的にほぼない
基本的に、あえて技術士補として登録するメリットはほとんどないと言っていいです。
「技術士」も「技術士補」も基本的には名称独占の資格ですから、技術士補として登録したからこの仕事が出来るようになる!ということはありません。
「技術士補の名称を使って自分に箔を付けたいんだよ」という場合でも、技術士補ではそこまで効果はないかなという印象です。
また、技術士二次試験を受験する際にも技術士補である必要はありません。
技術士補であることで必要な実務経験の期間が7年から4年に短縮されるというメリットはありますが、習得技術者でも同じように必要な実務経験の期間が7年から4年に短縮出来るます。
そのため、技術士補ならではのメリットというのはほとんどないかなと思います。
実際、技術士補の廃止も検討されているくらいです
就職の時には役立つかも…
もしかしたら、技術士補として登録しておけば就活の時に興味を持ってもらえるかもしれません。
良くも悪くも資格欄に技術士補と記載する人は珍しいでしょうから、面接で「なぜ技術士補として登録したの?」「指導技術士はどうしたの?」といった質問にしっかり答えられるようなら、面白いやつだと好意的に捉えてくれるかもしれません。
ただし、ちゃんと答えられないようなら逆に悪い印象を与えてしまうでしょうから諸刃の剣です
資格手当を受け取れる場合がある
こちらはあなたが勤めている会社次第ですが、会社によっては技術士補でも資格手当として給料アップが狙える場合があります。
例えば、建設業界では社員が技術士を取得するメリットが大きいので、技術士取得を促進するために技術士補にも資格手当を支給する会社があるそうです。
技術士補として登録することのデメリット
登録時に費用がかかる
技術士補として登録することのデメリットは費用が掛かるという点ですね。
登録には登録免許税15,000円と登録手数料6,500円で合計21,500円とそれなりの金額が掛かります。
大したメリットもないのにこれだけのお金を出すなら、もう少しお金を上積みして有料の技術士試験対策講座を受講した方が有意義かなと思います。
もちろん、技術士補に明確なメリットを見出せるような場合にはその限りではありません
技術士補は廃止される可能性がある?
そんな技術士補ですが、実は文部科学省と日本技術士会では技術士補を今後どうするか検討されています。
厳密に言うと、2016年12月に文部科学省 科学技術・学術審議会技術士分科会から『今後の技術士制度の在り方について』が公表され、それを受けて日本技術士会 技術士制度検討委員会が『「技術士制度改革について(提言)「最終報告」』を公表したという流れです。
公表された文書に記載している基本的な方針をもとに技術士制度を変えていくということですね。
具体的には以下のようなことが記載されています。
4.技術士補の在り方
4.1 技術士補制度の現状と課題
技術士法によれば、技術士補は以下のことが規定されている。
①技術士第一次試験に合格し、又は指定された教育課程を修了し、同一技術門の補助する技術士を定めて、法定の登録を受けていること。
②技術士補の名称を用いて、技術士の業務を補助する業務を行うこと。
③技術士補は、技術士を補助する場合を除くほか、技術士補の名称を表示して業務を行ってはならないこと。
1984 年に技術士補制度が発足して以来、2019 年 3 月末現在技術士補の登録者数は、約 36,000 人となっている。また、技術士補とは、技術士となるのに必要な技能を修習するため、法第 32 条第 2 項の登録を受け、技術士補の名称を用いて、技術士の行う業務について技術士を補助する者となっているが、その法目的と現状が乖離している可能性もある。
一方、技術士になるためには、技術士第二次試験に合格することが必要であり、第二次試験の受験資格(総合技術監理部門を除く)として、以下の 3 つのルートがある。
a.技術士補に登録して以降、技術士補として 4 年を超える期間技術士を補助している。
(2018 年度実績で受験者全体の 1.2%で減少傾向)
b.職務上の監督者の下で、科学技術に関する業務について、4 年を超える期間従事している。
(同 3.8%で増加傾向)
c.科学技術に関する業務について、7 年を超える期間従事している。
(同 95.0%)上記の数字が示すように、大多数の者が 7 年以上のルートを選択しているのに対し、技術士補のルートの選択者は極めて少なくこの傾向は年々強まっており、技術士補制度の意義は薄れ前期報告にて廃止も検討すべきとの提案がなされた。
引用:『「技術士制度改革について(提言)「最終報告」』日本技術士会 技術士制度検討委員会
どういうことなのか…
「技術士補って全然活用されてないよね」ということを言っています。
現状の問題点だけでなく、今後の方針についても記載されているので解説していきますね。
方針① 修習技術士へ名称を変更する
(1)名称変更について
引用:『「技術士制度改革について(提言)「最終報告」』日本技術士会 技術士制度検討委員会
技術士補制度に関して、技術士を目指すという本来の法目的とは異なった理解がなされているという状況があることも判明した。これは技術士補の資格により、一定の業務を行っているような印象を与えることに起因していると考えられる。技術士補が実施できる業務を明確にし、インセンティブを付与すべきとの意見や技術士補制度を継続すべきとの意見も一定程度あったことから、技術士補制度そのものを廃止するのではなく、「(仮称)修習技術士」と呼称変更することで技術士になるためのステップであることを明確にすることが考えられる。
技術士補の制度を廃止するのではなく「技術士補」から「修習技術士(仮)」と名称を変更することにしようという方針がまず挙げられています。
若干ややこしいのですが、この方針には2つの意図があります。
意図①:技術士補制度自体の廃止はしない
意図②:名称を変更することで、改めて技術士補制度の目的を明確にする
意図①「技術士補制度自体の廃止はしない」についてはわかりやすいかと思います。
技術士補制度に関するアンケートを取ったところ、技術士補制度を継続すべき、技術士補にももう少し特典を与えるべきという意見があったため、廃止にはしないという方針を出した形ですね。
意図②「名称を変更することで、改めて技術士補制度の目的を明確にする」については若干わかりにくいです。
そもそも技術士法では「技術士補とは技術士を目指すためのステップである」とされていたのですが、資料を読み込むとどうもその内容とは違う解釈がされているという意見があったそうです。
そこで、名称を「技術士補」から「修習技術士」に変更することで、「修習技術士(元技術士補)は技術士になるためのステップです」と明確にするという目的があるとのことです。
具体的にどんな解釈がされていたのかは公開されていませんが、おそらく「技術士補でも技術士の補助業務は出来るんでしょ?技術士補止まりでもいいじゃん」という解釈がされていたのではないかなと予想します。
あとは名称を変更することで
「技術士補制度を大幅に改革する(した)ぞ」
と分かりやすくなる効果もありそうだね。
方針② 技術士補(修習技術士)としての登録期限を設ける
(2)登録期間の制限
引用:『「技術士制度改革について(提言)「最終報告」』日本技術士会 技術士制度検討委員会
技術士補から技術士へ昇格した者のデータを分析すると、多くが 12 年目までに合格し 15 年を過ぎるとその数は極端に減少している。今回のアンケートでも、多くの者が技術士補として 10 年程度の経験を経て技術士となっている状況が窺える。このことから技術士補の名称を維持した場合でも、その活動できる年数を15 年程度に制限し、第二次試験合格を促進するという方策も考えられる。
技術士補(修習技術士)として登録できる期限を設けますという方針ですね。
これによって技術士になることを促進する効果を狙っています。
「いつまでも技術士補(修習技術士)でいないで、早く技術士になりなさいよ」
という意図があるわけですね。
ちなみに、アンケート結果から「さすがに15年あれば技術士になれるでしょ」ということで登録期限15年と想定したようですね。
方針③ 技術士補(修習技術士)としての登録時、指導技術士の部門制限をなくす
(3)指導技術士制度の見直し
引用:『「技術士制度改革について(提言)「最終報告」』日本技術士会 技術士制度検討委員会
技術士補制度を活用して登録後 4 年で技術士となる受験資格を得るルートの利用者が少ない理由の一つとして、指導する同一部門の技術士が確保しにくい現実があると考えられる。一方でもう一つのルートである職務上の監督者には、同様の規定が適用されない。
技術士補制度の存続・見直しの如何に関わらず、指導技術士の技術部門を特に限定しない方向に変更して行くことが必要である。
技術士補として登録するためには指導にあたる技術士「指導技術士」を見つけなければいけません。
しかし、指導技術士は「合格した第一次試験の技術部門と同一の技術部門とする」という規定があり、自分を指導してくれる指導技術士を見つけることは困難です。
そこで、「指導技術士の部門は同一である必要はない」という方向で見直しが検討されています。
方針④ IPD(修習技術者の資質能力の向上)を拡大・充実する
(4)初期の能力開発(IPD)の実施について
引用:『「技術士制度改革について(提言)「最終報告」』日本技術士会 技術士制度検討委員会
技術士が行う資質・能力の向上が CPD であり、修習技術者が行う資質・能力の向上が IPD である。前者は自立して業務を遂行する能力を向上させるための活動であり、後者はその資質・能力の獲得を目指して行う活動である。技術士を目指すためには IPD の実施が不可欠であり、IPD 支援の拡大、充実が必要である。
本会では、「修習技術者のための修習ガイドブック」(修習技術者支援委員会編)を作成し修習活動内容を明らかにしている。今後は IPD の必要性を周知する活動を行うとともに、その実践の拡大を目指していく。
技術士が行う資質・能力向上の取り組みをCPDといいます。
一方、修習技術者が行う資質・能力向上の取り組みをIPDといいます。
このうちのIPDをサポートする取り組みを拡大・充実をしていこうという方針ですね。
こちらの方針からも早く技術士になってほしいという意図がみられますね。
方針⑤ 大学生向けに一次試験受験をおすすめする
(5)在学中の第一次試験受験の奨励
引用:『「技術士制度改革について(提言)「最終報告」』日本技術士会 技術士制度検討委員会
近年、在学中に技術士第一次試験を受験する学生が増加傾向にあり、2018 年度では、在学中の受験者が 2,885 人と全体の約 15.4%を占め、その合格者も1,282 人で全体の約 20.0%となっている。在学中に第一次試験に合格し大学院の課程修了で実務経験を 2 年間短縮できる制度を活用すれば、極めて短期間の実務経験で第二次試験の受験資格を得ることができる。
技術士補制度の検討からは離れるが、本制度はそもそも「若手技術士の増加」を法目的に導入されたものであることから、在学中の第一次試験受験を奨励することも重要である。本会では大学等に出向いて技術士制度の説明を行う活動も実施しているが、在学中の受験の促進策についても大学技術士会等との連携を含め検討していく必要がある。大学など在学中の学生の受験を促進することにより、若手技術士の増加に繋がることが期待される。
大学生向けに一次試験の受験をおすすめしていこうという方針ですね。
これによって最終的には若手技術士の増加を狙っています。
大学と連携して技術士とはどのようなものかという説明会を行うなどを検討しているようですね。
これらの方針から、技術士補が廃止される可能性は低いと言える
このように、技術士会では技術士補制度について5つの方針で制度改革を進めていくことが公表されました。
- 修習技術士へ名称を変更する(制度は廃止しない)
- 技術士補(修習技術士)としての登録期限を設ける
- 技術士補(修習技術士)としての登録時、指導技術士の部門制限をなくす
- IPD(修習技術者の資質能力の向上)を拡大・充実する
- 大学生向けに一次試験受験をおすすめする
公表された方針を見る限り、技術士補制度が廃止される可能性は今のところ低いと考えられます。
もちろん、これはまだ技術士補制度改革の方針が公表されただけで今後どうなるかが決定したわけではありません。
もしかしたら、結局「やっぱり技術士補制度は廃止する」という結論に至るケースもあるかもしれません。
しかし、改革の方針を公表するということはかなり重い出来事ですから、この方針をひっくり返すというのはそうそう無いでしょう。
技術士補制度は若干形を変えて継続されていくというのが現実的な見方です
まとめ
技術士の種類について、技術士、技術士補、修習技術士の違いについて解説しました。
それぞれ以下のように使い分けされています。
名称 | どの試験まで合格したか | 技術士会で登録したか | 備考 |
---|---|---|---|
技術士 | 二次試験 | 登録した | |
(名称なし) (二次試験合格者) | 二次試験 | 登録していない | 技術士と名乗ってはいけない |
技術士補 | 一次試験 | 登録した | |
修習技術者 | 一次試験 | 登録していない | 技術士補と名乗ってはいけない |
JABEE認定課程修了者 | 受験していない | 登録していない | =修習技術者 認定された大学を卒業した者 |
また、技術士補制度の改革方針についてもまとめました。
公表された方針によると、技術士補制度が廃止される可能性は極めて低いと考えられます。
併せて、技術士補に登録することのメリット・デメリットについてもまとめておきました。
正直なところ技術士補に登録することのメリットはほとんどありませんので、登録するくらいならそれに掛かる費用を他の教材に回した方が有意義かなと思います。
こちらの記事でおすすめの講座を紹介していますので、興味があれば参考にしてください。
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