技術士は弁護士や医師のように特定の独占業務がある資格ではありません。
建設部門など一部の分野では実質的に独占業務に近い扱いを受けているケースもありますが、基本的に技術士を取得しても「技術士です」と名乗れるだけの名称独占にとどまります。
しかし、せっかく高い難易度の技術士を取得したなら、独占業務が得られるような強烈なメリットが欲しいですよね。
現状では技術士に独占業務はありませんが、将来的にはどうなのでしょうか?
この記事では、技術士の現状と将来について考察します。
技術士の独占業務に関する現状
技術士は名称独占資格であり独占業務はない
技術士は、弁護士や医師のような特定の業務を独占的に行う権利を持つ資格とは異なり、名称独占の国家資格です。
つまり、「技術士」という名称を名乗れるのは技術士試験に合格し技術士として登録した者のみです。
分類 | 資格名 |
---|---|
業務独占資格 | 弁護士 公認会計士 司法書士 など |
名称独占資格 | 技術士 中小企業診断士 保育士 など |
名称独占資格には罰則が規定されており、資格がないのに有資格者であると名乗ったり紛らわしい名称を名乗ったりすると処罰を受けることになります。
技術士の一部部門では実質的な独占業務もある
一方、建設部門など一部の部門では実質的に業務独占に近い扱いを受けているケースもあります。
例えば、公共工事の入札の際には審査があるのですが、技術士がいる企業は評価に加点が与えられたり、受注金額の上限が上がったりします。
そのため、技術士の中でも建設部門の人数は非常に多くの割合を占めます。
技術士の独占業務に関する可能性
技術士が業務独占資格となる可能性は低い
将来的に技術士に独占業務が与えられる可能性は低いと考えられます。
仮に技術士に独占業務を与えるとしてパッと思いつくのは「技術士がいなければ開発や評価など科学技術を活用した事業が出来ない」というようなことでしょうか。
しかし、これはあまりに実現可能性がありません。
もし、技術士でなければ開発業務など科学技術に携わることができないというような制限を設けたら、社会全体の機能が阻害されてしまうでしょう。
実現可能性があるとすればISO9001のような認定業務でしょうか。
「この企業の開発した製品は技術的に妥当である」あるいは「この企業の製品保証体制は技術的に妥当である」と技術士がお墨付きを与えるというようなイメージですね。
ただ、これも技術士の本来の姿である「技術的な問題を解決して科学技術の向上と国民経済の発展に貢献する」という内容とは離れたものになっているような気がします。
現実的に実行可能な範囲で、かつ技術士にふさわしい形の独占業務を技術士に与えるということは難しそうです。
技術士制度の今後について
文部科学省は「産業の構造、社会ニーズ、国際的な環境が大きく変化し、技術士制度の目指すべき方向性が改めて問われている。」として技術士制度の改革を進めています。
その中で、技術士資格の活用促進・普及拡大について議論されていますのでそちらを紹介します。
技術士制度の改革に向けた取り組み
第11期技術士分科会における技術士制度改革の検討報告では以下の取り組みについて検討が進められました。
(1)技術士資格の国際的な実質的同等性の確保
(2)技術士試験の適正化
(3)技術士補制度の見直し・IPD制度の整備・充実
(4)更新制・継続研さんの導入
(5)総合技術監理部門の位置付けの明確化
(6)活用促進・普及拡大
今回注目するのは「(6)活用促進・普及拡大」です。
文部科学省や日本技術士会では、技術士資格が十分に活用されていないという点を問題としてとらえており、それを解消するための取り組みを進めるとしています。
・技術士制度の活用促進・普及拡大のためには技術士に対する需要を生み出すことが重要
「第11期技術士分科会における技術士制度改革の検討報告」文部科学省
・時宜にかなった社会的要請に技術士が応えられるよう、文部科学省と技術士会が連携して他省庁や産業界等に対して、技術士資格の活用を周知
このように、他省庁や産業界に対して技術士資格の活用を働きかけるとしています。
独占業務に近いメリットの獲得はあるかも
ということで、技術士は独占業務という形は難しいかもしれませんが、将来的にはそれに近いメリットを持つ資格になる可能性は考えられます。
例えば、ものづくり補助金などの公的な補助金や助成制度を活用する際、審査項目に「技術士の資格を持っている人材がいる場合は加点する」といったことがあるかもしれません。
技術士の資格を持っている人材を積極的に採用する企業が増えることも有るかもしれません。
このように、技術士資格の価値向上に向けた取り組みは着実に進められています。
将来的には、技術士がより多くの分野で活躍できる環境が整備されることが期待されます。
ただし、これらの取り組みが実現するには十年以上の長い年月が必要になると思います。
まとめ
技術士に独占業務が与えられる可能性は低いものの、資格の価値向上に向けた取り組みは着実に進められています
将来的には、技術士がより多くの分野で活躍できる環境が整備されることを期待したいですね。