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ステンレスが腐食する原因と対策【技術士の簡単解説】

科学技術解説

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ステンレスは腐食しにくい金属である

ステンレスとは、鉄(Fe)を主成分としてクロム(Cr)を一定量以上含ませた合金鋼です。

ステンレスは耐食性の高い(錆びにくい)金属として知られており、ただの鉄では簡単に錆びてしまう環境でも、ステンレスなら錆びずに使用することができます。

身近なところではスプーンやフォークなどの食器や台所の部品、自動車の部品などに使用されています。
その他にも電化製品の部品や工場の配管など、様々な用途で使用されている金属です。

腐食しにくいとはいえ、腐食する場合もある

高い耐食性をもつステンレスですが、そんなステンレスでも錆びてしまう環境があります。

代表的な環境をとして「海水」「塩酸」「硫酸」などが挙げられます。
これらの環境下では、耐食性の高いステンレスといえども比較的簡単に腐食してしまいます。

さて、ひとくちに腐食と言ってもステンレスの形状や種類、置かれる環境によって異なる形態で腐食します。

ここでは水分がある環境での腐食(湿式腐食と呼ばれます)に焦点を当てて、代表的な腐食形態について解説していきます。

ステンレス(金属)の腐食形態の分類

腐食形態① 全面腐食

金属の表面から全面的に一様に腐食していく形態です。均一腐食とも呼ばれます。

硫酸や塩酸などの酸性溶液中で発生します。

全面腐食(断面から観察)

 

<対策>

全面腐食を防ぐためには腐食しにくい材質を適切に選定する必要があります。

また、テフロンコーティングやガラスライニングを施したり、テフロンカバーを被せて材料と環境が接触しないようにするという対策も効果的です。

あるいは、腐食することを前提にして、腐食速度が予想しやすく全面的に均一に腐食することから定期的に部品を交換するなど運用面で対策を行うことも可能です。

腐食形態② 孔食

金属の表面で局所的に発生する腐食のひとつです。

外観を観察した時、図のように虫食い状の孔があるのが特徴です。
不動態皮膜が破損した箇所から集中的に腐食が進行する為にこのような形状になります。また、間口の割に深い孔になっていることが多いです。

孔食は塩素イオンが存在する液中などで生じます。

また、不動態皮膜が充分形成されていない箇所、例えば溶接した箇所などで集中的に発生しやすいという特徴があります。

孔食(断面から観察)

 

<対策>

全面腐食と同じく、孔食を防ぐためには腐食しにくい材質を適切に選定することが効果的です。

また、テフロンコーティングやガラスライニングを施したり、テフロンカバーを被せて材料と環境が接触しないようにするという対策も効果的です。

その他、溶接部などの不働態皮膜が弱い箇所から腐食していくことから「不働態化処理」という表面処理を行うことも対策として挙げられます。

ステンレスの表面処理についてはまた別記事で詳細に記載する予定です。

腐食形態③ すきま腐食

ボルト締結箇所や溶接箇所など、その名の通り金属同士のすきまに発生する腐食です。

すきま腐食の原理は「酸素濃淡電池」と呼ばれるものです。

簡単に説明すると「金属同士のすきま部分は外部周辺よりも酸素の供給が不十分となり、すきま部分の酸素濃度が小さくなる。そうすると酸素濃淡電池というものが形成され、酸素濃度の小さい箇所(すきま)の金属が溶け出す。」という原理です。

すきま腐食(断面から観察)

 

<対策>

すきま腐食についても有効な対策は適切な材質選定になります。

すきまがないように施工する(例えばすきまなくボルトを締結する)ことは現実的には不可能ですので、やはり材質選定が最も効果的となります。

また、そもそもすきまが生じる箇所を少なくするという設計面から対策することも有効です。

腐食形態④ 応力腐食割れ

金属の表面から亀裂が進展し、最終的に割れたように破損する形態の腐食です。
疲労破壊のように長期間の潜伏期間の後に突然破断に至るのが特徴です。

引張応力による亀裂進展と腐食による亀裂進展が交互に発生して割れることから応力腐食割れと呼ばれています。

Stress(応力) Corrosion(腐食) Cracking(割れ)の頭文字をとって「SCC」とも呼ばれます。

応力腐食割れ(断面から観察)

 

<対策>

応力腐食割れは以下の3つの条件が揃った時に発生すると言われています。逆に言えば、3つの条件のうちどれかひとつでも対策できれば応力腐食割れは発生しません。

 ●応力腐食割れが発生する3つの条件

  1.引張応力:単純な外力による引張荷重だけでなく加工の過程で生じる残留応力も該当する。

  2.腐食環境:主に塩化物イオンが存在する環境。

  3.材料  :SUS304等のオーステナイト系ステンレスは発生しやすい。

       一方でSUS403等のフェライト系ステンレスは発生しにくい。

 

腐食形態⑤ ガルバニック腐食

電気を通す液中(電解質水溶液)で異なる種類の金属が接触した時、片方の金属が急激に腐食する現象です。

異なる種類の金属が接触した時に生じる腐食ということで「異種金属接触腐食」とも呼ばれます。

この現象は乾電池と同じ原理です。
乾電池は便利なものですが、この場合は腐食というマイナスの現象も生じてしまうわけですね。

異種金属を接触させる機会は多く、例えば板材にボルトを締結する場合などでもガルバニック腐食が発生してしまいますので注意が必要です。

 

<対策>

ステンレス鋼同士、炭素鋼同士など、そもそも異種金属を組み合わせないことで腐食を防止することができます。

あるいは、同一金属ではなくとも電位の近い金属を組み合わせることでも腐食を防止することが可能です。

また、異種金属間を油やグリースなどで保護したり、塗装やスペーサー等で絶縁することで腐食を防止することが可能である。

そのほか、卑金属に対する貴金属の面積の割合を小さくすることで腐食速度を低下させることが可能です。

腐食形態⑥ 粒界腐食

これまで解説してきた腐食は周囲環境が原因で発生する腐食でしたが、ここで解説する粒界腐食は材料の熱処理が原因で生じる(生じやすくなる)腐食です。

粒界腐食はその名の通り、ステンレスの粒界に沿って亀裂が進行する腐食です。
しかし、通常は粒界腐食が問題になるケースは多くありません。

それではどのような場合に粒界腐食が問題になるかというと、材料が熱処理や溶接によって金属組織が変化してしまった場合です。

ステンレスは500~800℃で長時間保持すると鋭敏化という耐食性が低下してしまう現象が発生します。
鋭敏化の原理を簡単に言うと、「500~800℃でステンレス中のクロムが炭素と結合して粒界に析出する ⇒ クロム+炭素が析出した近傍ではクロムの濃度は低い状態である ⇒ クロムはステンレスの耐食性の要なので、クロムが少ない場所の耐食性は低くなる ⇒ クロムが少なく耐食性の低い箇所で集中して腐食が進行する」というものです。

 

<対策>

鋭敏化が発生しないように熱処理や溶接の工程を設計することが出来るのであればそれが対策になります。

鋭敏化が発生してしまった場合は、ステンレスを1000℃以上で熱処理してクロム炭化物を溶解させる「容体化処理」を行うことで耐食性を保持することができます。

上記の対策が難しく鋭敏化が避けられない場合は、炭素量を低くしたSUS304LやSUS316L、そのほかニオブやチタンを含有させた種類のステンレスを使用することで鋭敏化を抑えることが可能です。

腐食形態⑦ 腐食摩耗

ステンレス表面に不働態皮膜が形成される⇒摩耗により不働態皮膜が剥がれステンレス素地が露出する⇒ステンレス表面に不働態皮膜が形成される⇒摩耗により…

これを繰り返すことでステンレスが減肉していく現象を腐食摩耗と呼びます。

技術士風に600字以内でまとめ!

ステンレスの腐食について技術士二次試験 筆記試験 問題Ⅱー1(選択科目)を想定して600字以内に収まるようにまとめてみました。

技術士試験を受ける予定のある方はぜひ参考にしてみてください。

なお、本記事では解説していない専門的な用語・事柄などが記載されている場合があります。
それらに関する詳細は市販されている参考書などをご参照ください。

<ここから600字でまとめ!>

「ステンレス」について、耐食性の観点からそれぞれを比較して述べる。

ステンレスは鉄にクロムやニッケルを含有させた合金であり、材料に含まれるクロムが材料表面で酸素と結合して不動態被膜を形成することで高い耐食性を示す。また、この不動態被膜は外部からのキズ等により破壊されたとしても酸素があれば自己修復するという特徴を持つ。
高い耐食性を示すステンレスだが、その中でも種類によって特に耐食性の高い物や比較的腐食しやすい物が存在する。一般的に耐食性の高さは以下の順であるとされる。

  高 オーステナイト系
    フェライト・オーステナイト系
    フェライト系
  低 マルテンサイト系

マルテンサイト系ステンレスは焼き入れにより炭素を過剰に含有しており、ステンレス鋼の中では比較的腐食しやすい。しかし、一般的な環境であれば充分な耐食性を示し、硬度が高いこともあり包丁等で使用される。オーステナイト系ステンレスは最も耐食性が高いとされるが塩素イオンが生じる環境においては応力腐食割れが発生する恐れがあるという弱点がある。フェライト系やフェライト・オーステナイト系ステンレスは応力腐食割れが発生しにくいとされるため、応力腐食割れが懸念される環境においてはオーステナイト系よりも耐食性において有利であるという面もある。

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